「足るを知る」という言葉は、
何かを我慢しなさい、欲を捨てなさい、そう諭す言葉のように聞こえるかもしれません。
けれど本来の「足るを知る」とは、
足りないものを数えることではなく、すでに在るものに気づくことなのだと思います。
今日も無事に目が覚めたこと。
湯気の立つご飯を前にできること。
話を聞いてくれる人がいること。
静かに呼吸ができる、この一瞬。
それらは当たり前のようでいて、
実は決して当たり前ではありません。
人は、持てば持つほど、まだ足りないものを探してしまいます。
比べ、焦り、羨み、心はいつの間にか渇いていく。
欲そのものが悪いわけではありません。
向上心も、願いも、人を前へ進めます。
けれど欲に振り回されてしまえば、
心は休む場所を失ってしまう。
足るを知るとは、立ち止まる勇気を持つこと。
「いま、ここで、十分だ」とそっと自分に言ってあげること。
少なさの中に、豊かさはひっそりと息づいています。
音のない静けさや、何気ない日常の温度の中に。
足るを知る人は、多くを誇らず、少なさを恥じません。
比べず、競わず、自分の歩幅で今日を歩いていきます。
それは諦めではなく、心が満ちているということ。
足るを知ったとき、人生は静かに、深く、味わいを増していくのだと思います。

