仕事も人間関係も、慣れてくると感謝や緊張感を忘れてしまうことがあります。「当たり前」の中に隠れている大切なものを見つめ直し、初心に戻ることの意味を考えます。
何事も、最初は一生懸命です。
初めて仕事を任された時。
初めて誰かに認めてもらった時。
初めて大切な人と出会った時。
分からないことがあれば聞き、失敗しないように気をつけ、周りへの感謝も忘れません。
ところが人は、不思議なもので、
「慣れる」
ということがあります。
もちろん、慣れること自体は悪いことではありません。
経験を重ねれば仕事は早くなり、余裕も生まれます。
けれど、その「慣れ」がいつの間にか、「当たり前」に変わってしまうことがあります。
そこが少し怖いところなのかもしれません。
最初はありがたかったことが、当たり前になる誰かが自分のためにしてくれたこと。
最初は、
「ありがとう」
と思っていたはずです。
ところが、それが毎日続くとどうでしょう。
いつしか、
「してくれて当然」
になってしまうことがあります。
家族だから。
夫婦だから。
親だから。
子どもだから。
同僚だから。
長い付き合いだから。
けれど、本当は世の中に「してもらって当然」のことなど、それほど多くないのではないでしょうか。
ご飯を作ってくれること。
働いてくれていること。
話を聞いてくれること。
自分のことを心配してくれること。
毎日元気に顔を合わせられること。
どれも失って初めて、そのありがたさに気づくことがあります。
だからこそ、失う前に気づきたいものです。
仕事も慣れた頃が一番怖い
仕事でも同じです。
初めての頃は、一つひとつ確認します。
これで大丈夫だろうか。
間違っていないだろうか。
相手に失礼ではないだろうか。
ところが何年も続けていると、
「いつもやっているから大丈夫」
という気持ちが出てきます。
もちろん経験は大切です。
何年、何十年と積み重ねた経験は、一日や二日で身につくものではありません。
昔から職人の世界では、
「慣れた頃が一番危ない」
と言われてきました。
手が覚えているからこそ、確認をしなくなる。
知っているからこそ、人の話を聞かなくなる。
できると思っているからこそ、基本を飛ばしてしまう。
そして、思わぬ失敗につながります。
技術が上がったことと、雑になることは違います。
経験を積んだ人ほど基本を大切にする。
それが本当の熟練なのかもしれません。
「知っている」と思った瞬間、人は学ばなくなる
もう一つ、慣れの怖いところがあります。
それは、
「自分は知っている」
と思ってしまうことです。
人から何か言われても、
「そんなこと分かっている」
と思う。
若い人の話を聞いても、
「昔からこうだから」
と思う。
新しい方法を見ても、
「今までこれでやってきた」
と思う。
けれど世の中は変わっていきます。
自分自身も変わっていきます。
昨日まで正しかったことが、今日も必ず正しいとは限りません。
昔から受け継がれてきたものを大切にしながら、新しいものにも耳を傾ける。
その両方が必要なのだと思います。
大切なのは、
何年生きたかではなく、何年学び続けたか。
なのかもしれません。
人間関係ほど「慣れ」に気をつけたい
長く付き合っている人ほど、言葉が雑になることがあります。
他人には言わないような言葉を家族には言ってしまう。
外では「ありがとう」と言えるのに、家では言わない。
他人には気を使うのに、一番身近な人には気を使わない。
けれど考えてみれば、不思議な話です。
人生で一番長くそばにいてくれる人ほど、本当は一番大切にしなければならないはずです。
親しき仲にも礼儀あり。
昔からある言葉ですが、とても深い言葉だと思います。
礼儀とは堅苦しいものではありません。
「ありがとう」
「ごめんな」
「大丈夫か」
そんな短い言葉だけでもいい。
近い人ほど、言葉にする。
それだけで人間関係は少し変わります。
初心に戻るということ
初心に戻る。
よく聞く言葉です。
しかし、本当に昔の自分に戻る必要はありません。
今まで積み重ねてきた経験まで捨てる必要はないからです。
経験を持ったまま、
最初の頃の気持ちを思い出す。
それが初心に戻るということではないでしょうか。
初めて誰かに喜んでもらった日のこと。
初めて給料をもらった日のこと。
初めて自分の商品を買ってもらった日のこと。
初めて「ありがとう」と言ってもらった日のこと。
その時、自分はどんな気持ちだったでしょう。
きっと今より少し不器用で、
今より少し必死で、
そして今より少し素直だったのではないでしょうか。
当たり前の反対は「ありがとう」
「当たり前」の反対は何だろう。
そんなことを考えることがあります。
私は、
「ありがとう」
なのではないかと思います。
今日も朝を迎えられた。
今日もご飯を食べられた。
今日も働けた。
今日も誰かと話せた。
今日も帰る場所がある。
一つひとつを見ると、決して大きな出来事ではありません。
けれど人生とは、そんな小さな当たり前の積み重ねです。
だから時々、
「これは本当に当たり前なのだろうか」
と自分に問いかけてみる。
それだけでも、見える景色は少し変わるかもしれません。
まとめ|慣れてきた時こそ、一度立ち止まる
人は慣れます。
それは生きていくために必要な力でもあります。
けれど、
慣れることと、感謝を忘れること。
慣れることと、雑になること。
慣れることと、人の話を聞かなくなること。
これは別の話です。
長く続けてきたからこそ、基本を大切にする。
身近な人だからこそ、感謝を伝える。
知っていることだからこそ、もう一度学んでみる。
そうありたいものです。
人生の大きな失敗というのは、突然始まるのではなく、
「これくらい大丈夫」
という小さな慣れから始まることがあります。
反対に人生を整えてくれるものも、
「ありがとう」
「もう一度確認しよう」
という、小さな心掛けなのかもしれません。
今日一日だけでも、
当たり前になっている何かを一つ見つけて、
心の中で「ありがとう」と言ってみる。
それだけで十分です。
心の庭は、そういう小さな気づきから、少しずつ整っていくのだと思います。

