お寺の案内や仏教の本で「陀羅尼」という言葉を見かけたとき、どう読めばよいのか、真言やお経と何が違うのか、戸惑うことがあるかもしれません。
陀羅尼は「だらに」と読みます。唱える言葉として説明される一方で、教えを忘れずに保つ働きという意味も持つ言葉です。一つの短い定義に収めようとせず、言葉の意味と具体的な例から見ていきましょう。
陀羅尼の意味と読み方
『新纂浄土宗大辞典』の「陀羅尼」の項目によると、陀羅尼はサンスクリット語の dhāraṇī を音写した言葉です。音写とは、外国語の音を漢字などで表すこと。「だらに」という読みも、その音に由来します。
同辞典は、その語源を「保つ」という意味の動詞に求め、「総持(そうじ)」などの訳語を挙げています。また、仏教の教えを覚えて失わないことや、悪い行いを防ぎ続けることを陀羅尼とする説明も紹介しています。
唱える言葉としての陀羅尼を知るときも、教えを保つという意味を合わせて覚えておくと、言葉の広がりをつかみやすくなります。
真言と陀羅尼は何が違う?
『新纂浄土宗大辞典』は、一般的な傾向として、梵語で唱える呪文のうち短いものを真言、長いものを陀羅尼と呼ぶ、と説明しています。梵語とは、ここではサンスクリット語のことです。
大切なのは、これが「一般的な傾向」とされている点です。文字数による厳密な区分として覚えるより、個々の経典や寺院でどのように呼ばれ、説明されているかを確かめるほうが、誤解を避けられます。
長さだけで、どちらが優れているかを判断する説明ではありません。
お経と陀羅尼は別のもの?
陀羅尼をお経と無関係なものとして切り離すこともできません。経典の中に陀羅尼が説かれている例があるからです。
法華経の「陀羅尼品」に見る信仰
『法華経』には、第26章に「陀羅尼品(だらにほん)」があります。日蓮宗の公式解説では、菩薩や天王などが陀羅尼を説き、法華経を信仰・実践する人を守ると誓う章として紹介されています。
ここでの「守る」は、経典に説かれる信仰上の説明です。「唱えれば現実の危険を必ず避けられる」という保証として受け取るものではありません。
この例を見ると、「お経か、陀羅尼か」という二者択一では捉えきれないことが分かります。どの経典の、どのような場面で説かれているのかを知ることが、理解の手がかりになります。
お経の内容に親しむ入口として、般若心経は何を伝えているのか?「空」の意味をやさしく読み解くもご覧ください。こちらでは、般若心経の教えを初心者向けに紹介しています。
歴史資料に残る「百万塔陀羅尼」
陀羅尼は、印刷された歴史資料としても伝わっています。その一例が「百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)」です。
国立国会図書館の展示解説は、神護景雲4年(770年)の「無垢浄光陀羅尼」を紹介しています。奈良時代の称徳天皇が作らせ、陀羅尼を小さな塔に納めて寺院へ奉納したものと説明されています。
陀羅尼を印刷し、塔に納めて伝えた歴史の一例です。辞典の説明だけではつかみにくい言葉も、こうした資料と合わせて見ると、少し身近になるのではないでしょうか。
初めて陀羅尼に触れるときに
まずは、目にした陀羅尼の名前や、どの資料で紹介されていたかを確かめてみてください。同じ「陀羅尼」という言葉でも、その場面に即して読むことが大切です。
唱え方を知りたいときは、参拝先の寺院に尋ねたり、その寺院や宗派の公式な案内を確認したりするとよいでしょう。この記事では、個々の陀羅尼の読み方や唱える回数を一律に示すことはしていません。
難しい言葉を一度に覚える必要はありません。名前を知り、背景にある教えや信仰に少しずつ触れていく。そのような出会い方から始めてもよいのだと思います。
参考資料
- 新纂浄土宗大辞典「陀羅尼」(執筆:袖山榮輝) — 読み方、語源、訳語、真言との関係、教えを保つ働きについて。
- 日蓮宗「陀羅尼品」 — 法華経第26章に説かれる守護の誓いについて。
- 国立国会図書館「本の玉手箱」第2部第2章第2節「教科書で見た本」 — 「84 無垢浄光陀羅尼」の年代と百万塔陀羅尼について。

