人は、人生の中で忘れることのできない出来事に出会います。
私にとってそれは、家族の死でした。
私は十二歳のとき、父を亡くしました。
小学校を卒業する少し前のことです。
あまりにも突然で、子どもだった私には、その出来事をどう受け止めてよいのか分かりませんでした。
悲しいという気持ちよりも、ただ現実がよく理解できない。
そんな感覚だったのを覚えています。
周りの人は悲しんでいるのに、自分はどこかぼんやりしている。
まだ幼かった私の心は、その出来事の大きさをすぐには理解できなかったのかもしれません。
それから三十年以上の月日が流れました。
大人になり、人生を重ねる中で、父の死という出来事の意味を少しずつ考えるようになりました。
あの経験は、決して簡単なものではありませんでした。
けれど今振り返ると、人生の大きな学びの一つでもあったと思います。
人の命は永遠ではないこと。
当たり前だと思っている日常は、実は当たり前ではないこと。
そして、今こうして生きていること自体が、ありがたいことなのだということ。
父がいない人生は、決して楽なものではありませんでした。
けれど、その経験があったからこそ、人の悲しみや苦しみに少し寄り添えるようになった気もします。
人は、悲しみの中でも生きていきます。
そして、時間とともに、その悲しみは静かに形を変えていきます。
消えることはありません。
けれど、いつしかそれは「支え」や「教え」に変わっていくのかもしれません。
父の命日になると、ふと立ち止まり、あの日のことを思い出します。
そして、こうして今日も生きていることに、
少しだけ感謝するのです。

