断ることは冷たさではない――人を大切にしながら、自分も大切にする

気づき・学び

頼まれると、つい「いいですよ」と答えてしまう。あとで予定を見直して、どうやって時間をつくろうかと困る。そんな場面はないでしょうか。

手伝いたい気持ちがあっても、引き受けられるとは限りません。相手を大切にする気持ちと、自分の時間や余力を守ること。その両方を置き去りにしない返事を、考えてみたいと思います。

ここでは、日常の誘いや、まだ引き受けていない頼まれごとを中心に取り上げます。

頼みを断ることと、人を否定することを分ける

「断ったら、冷たい人だと思われるかもしれない」。そう考えると、返事が難しくなることがあります。

西オーストラリア州の公的機関CCIの資料は、依頼への断りを、その人自身の拒絶と分けて考える視点を紹介しています。引き受けられないのは今回の頼みであって、相手を大切に思っていないという意味とは限らないのです。

英国NHSも、相手の考えや必要としていることを尊重し、自分にも同じ尊重を求める伝え方を紹介しています。こうした伝え方は「アサーティブ」と呼ばれます。

相手に譲り続けることだけが、思いやりの形ではありません。できることと、難しいことを伝える。そのうえで関わり方を考える余地もあります。

返事の前に、引き受ける範囲を確かめる

すぐに答えが出ないときは、確認する時間を取る返事も考えられます。

例えば、「予定を確認して、明日の夕方までに返事をします」。これは引き受ける約束ではなく、返事をする時期の約束です。相手がいつまで待てるかも確認しておきましょう。

その間に、次のような点を考えてみてください。

  • 頼まれているのは、具体的に何を、いつまでにすることか。
  • すでに決まっている予定と、両立できるか。
  • 全部は難しくても、一部なら本当に引き受けたいと思うか。

「少しだけ」と言われても、自分にとってどのくらいの時間が必要かは、内容によります。分からないまま返事をするより、先に確かめてもよいのです。

断る言葉は、短く、正直に

CCIの資料では、断る際には簡潔さ、正直さ、礼儀を大切にすることが勧められています。理由をいくつも作るより、伝えられる範囲の事情と返事を言葉にしてみましょう。

以下は、日常の場面を想定した例文です。

誘いを断るとき

「誘ってくれてありがとう。今回は参加を見送ります」

別の日なら会いたいときには、「今月は難しいけれど、来月なら予定を相談したいです」と付け加えることもできます。本当にそうしたい場合だけで十分です。

手伝いを頼まれたとき

「声をかけてくれてありがとう。今週は時間が取れないので、今回は引き受けられません」

一部ならできる場合は、「当日の手伝いは難しいですが、前日の資料確認ならできます」と、範囲を伝える方法もあります。代わりの申し出まで、無理に用意する必要はありません。

その場では決められないとき

「今は引き受けられるか分からないので、確認してから返事をさせてください」

曖昧なまま相手を待たせないよう、返事をする時期も相談します。難しいと分かったら、その結果を伝えましょう。

すでにした約束は、別に考える

まだ引き受けていない依頼を断ることと、引き受けた約束を変更することは、同じではありません。

すでに「やります」と伝えていたなら、何も言わずに取りやめるのではなく、難しくなった事情を早めに伝え、今後どうするかを相談したいところです。できる範囲が変わった場合も、相手に分かる形で伝えます。

仕事の指示や契約など、責任や条件が関わる場面では、ここで紹介した日常の例文だけで判断せず、担当者と範囲や期限を確認してください。

感謝することと、すべてを引き受けることは、分けて考えられます。受けた気遣いにはお礼を伝えながら、今回できないことも伝える。どちらか一方を消さなくてもよいのです。

人との関係で大切にしたい感謝や気遣いについては、「義理と人情とは何か」でも綴っています。こちらは、書き手の考えを扱った随想です。

断ったあとも、自分の言葉を確かめる

丁寧に伝えても、相手が残念に思うことはあるでしょう。どんな言い方なら必ず納得してもらえる、という答えはありません。

あとから気になるときには、「返事を曖昧にしなかったか」「相手を責める言い方になっていなかったか」「引き受けられる範囲を正直に伝えたか」と、伝えた内容を振り返ってみてもよいと思います。

言葉が足りなかったなら、補足することもできます。けれど、相手の反応を見て、そのたびに自分の返事を取り消す必要があるとは限りません。

人を大切にしながら、自分にも無理のない関わり方を探す。断るという小さな返事も、そのための一つの言葉になり得るのではないでしょうか。

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